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研究館より

ラボ日記

2022.08.02

シングルセル解析

Single-Cell RNA-sequencingという技術を取り入れてオオヒメグモ胚を解析し、つい先日、その結果を論文として発表することができました。この技術は、バラバラにした細胞の1つ1つに含まれるmRNA分子の塩基配列を解析し、ゲノム上のすべての遺伝子に対してmRNAが何分子存在しているかを明らかにするものです。この実験技術については以前にも紹介しましたが、この技術を支えるものの1つに、細胞や分子を見分けるための標識のついた特殊なビーズの存在があります。数十マイクロメートルの直径のビーズで、表面には短い1本鎖DNAが多数生えて(?)おり、その1本1本のDNAはmRNAと結合できる配列(mRNAは3’側にpolyA配列をもつので、それと相補的なTの連なった配列)と、ビーズ固有の配列(これで細胞を見分ける)、そしてそれぞれの1本鎖DNAに固有の配列(これでmRNA分子を見分ける)をもっています。このようなビーズ1つと細胞1つを個別に仕切った状態で反応させることによって、細胞に含まれるmRNA分子と同じ塩基配列をもつDNAを細胞ごとに、そして分子ごとに異なる標識(塩基配列)をつけた状態で増幅することができるのです。方法を知った時には、なんて賢いのだ!、ビーズ凄いな!と感動でした。私たちの知らないどこかで開発されたものに、私たちの研究は支えられているのです。でも、いざ自分で実験を開始すると、ビーズを扱う(ちょっと格好良い)ステップよりも、細胞に関わるステップの方が余程大変であることを悟りました。バラバラにしたオオヒメグモ胚の細胞はなんだか頼りなく、浸透圧に問題があるのか、一般的に使われる溶液ではペラペラになって浮いてしまうのです。細胞を回収できるように条件を決めるのに少し手こずりましたが、なんとか実験を行いデータを解析すると、その結果は驚くべきものでした。含まれているmRNA分子をもとに細胞をグループ分けし、似た者同士が近くに来るようにプロットすると、見事に体の前後(頭尾)に沿ったパターンが再現されたのです。体づくりのもととなるパターンの形成を細胞レベルで解析する新たな手段を手に入れたことになります。実のところ、実験開始当初は、新しい技術を使っても本当に何か新しいことが見いだせるのだろうかと、少し懐疑的、かなり心配でした。でも常日頃、新しい技術にトライすることを大切にしています。新しい技術によって、これまでとは違う景色が見えるようになる(違う角度から現象を捉えられるようになる)と思っているからです。まだ使いこなしているとは言えない状態ですが、シングルセル解析に挑戦して良かったです。細胞1個の分解能で探るオオヒメグモの胚発生はどのように見えてくるのでしょうか。

日本語の解説ページはこちらです
https://www.brh.co.jp/research/lab04/report/detail/322
原著論文へのリンクはこちらです
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fcell.2022.933220/full

 

動物の初期発生に興味を持ち、オオヒメグモを用いて研究しています。