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研究館より

ラボ日記

2024.09.18

2024年シュペーマン・マンゴールドの論文から100年

今年、2024年はシュペーマン・マンゴルトの論文の出版から100年の節目です。発生生物学の最重要論文のひとつで、両生類胚を用いた移植実験によりオーガナイザーを発見したことが述べられており、この発見でシュペーマンは1935年にノーベル賞を受賞することになります。マンゴルトはこの論文の年に亡くなってしまうのですが。この実験については日本でも教科書に紹介されており、ご存知の方も多いのではないでしょうか。私も高校の授業でこの実験のことを知り、大変感動したことを覚えています。今、こうして研究者として活動していることの、きっかけのひとつかも知れません。間もなく、彼らが実際に実験を行ったドイツのフライブルク大学で100年を記念したシンポジウムが開催されます。この文章がアップされる頃には、私もそのシンポジウムに参加し、クモのパターン形成のsingle-nuc解析について発表しているはずです。(それか、ドイツで迷子になっているかです。)多くの著名な研究者の方々が参加されるので楽しみに思っています。小田ラボからは、先日まで奨励研究員だった藤原さんも参加し、クモの双子胚について発表する予定です。

両生類胚でオーガナイザーとしてはたらく組織は胚の非常に小さな領域ですが、周囲の細胞にはたらきかけて体の背側にある構造(中枢神経系や体節)の形成を誘導することができます。移植によりふたごを形成できるのです。90年代にはオーガナイザーの機能を担う分子が次々と発見され、毎週、毎月、ワクワクしながら論文を読んだものです。さらに、そのようなオーガナイザー分子のはたらき方も、単に背側構造を誘導するのではなく、シグナル分子による構造形成の抑制を解除するような機構になっていることが示され、このことにもまた感動しました。

私たちがオオヒメグモで初めてRNA干渉に成功したのもオーガナイザー分子の相同分子Sogに対してです。2本鎖RNAを雌に注射して2週間ほど経って諦めかけた頃、左右の付属肢が融合したような胚が現れたのです。オオヒメグモの研究を進めるための第一歩となりました。SogのRNA干渉に加えて、クモではふたご胚が形成できるということもあり、シュペーマン・マンゴルトの実験には私も非常に愛着があります。クモではまだ分子機構や細胞の振る舞いについては分からないことも多いのですが、今回のシンポジウムで新たな着想が得られたらと思います。細胞がひとつの体を作り上げていくという、そのことをもっと理解していけたら良いな、と思っています。

写真:シンポジウムが行われる建物です。無事、到着しました。(9月15日現地から)

動物の初期発生に興味を持ち、オオヒメグモを用いて研究しています。