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研究館より

ラボ日記

2025.09.17

今年も公開シンポジウムを開催しました

今年もこの9月に公開シンポジウムを開催しました。ご来場またはオンラインで接続し、ご参加いただいた多くの方に感謝いたします。大阪大学から大学院生も多数参加がありました。ありがとうございました。

JT生命誌研究館の他の講演イベントに比べ、専門性の高い内容でしたが、現在進行中の最先端研究を知る良い機会になれば幸いです。

今年のテーマは「原始多細胞動物の世界 〜ゲノムと実験研究から迫る未踏の知〜」でした。京都大学の船山典子博士と県立広島大学の菅裕博士をお招きし、多細胞動物の始まりと初期の多細胞動物に関するご講演をいただきました。

船山博士には、カイメンの細胞間接着や細胞間相互作用、幹細胞のしくみについて古典的な知見から最新の分子的解釈まで、丁寧に解説していただきました。カイメン細胞で遺伝子実験ができるようになり、研究が楽しみなところにきているというお話しを伺いました。

菅博士には、カタツムリから単離された、多細胞動物に近縁な単細胞生物「カプサスポラ」を用いた実験研究をご紹介いただきました。カプサスポラにはアメーバ様の単細胞状態と凝集形成状態があり、菅博士の研究チームは凝集形成に関わる因子の同定に取り組んでおられます。カプサスポラではすでに遺伝子発現導入やゲノム編集が可能になっており、遺伝子や分子の機能に基づく実験研究の発展が期待される状況であるとお話しいただきました。

シンポジウムの冒頭で私からもお話しましたが、ここ数年間で、多細胞動物の初期に分岐した現存の様々な動物系統のゲノムと、多細胞動物に近縁な様々な現存単細胞生物のゲノムが、高精度で解析されています。ゲノムが持つ、生物の深い歴史の謎を解き明かす力を信じ、ゲノム解析と実験研究と組み合わせることで、まだ見えていない原始の多細胞動物の世界が見えてくるのではないかと、私自身も希望を抱いています。そんな希望を何人かの若い人たちと共有できたら嬉しく思います。

動物多様化の背景にある細胞システムの進化に興味を持っています。1) 形態形成に重要な役割を果たす細胞間接着構造(アドヘレンスジャンクション)に関わる進化の研究と、2) クモ胚をモデルとした調節的発生メカニズムの研究を行っています。