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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【パンとぱん】

2009.6.2 

中村桂子館長
 朝食に「米ぱん」をいただきました。プレーンの他に、カレーぱん、あんぱん、ハムぱんを少しづつ。しおりに「米ぱん」の特徴として、“もちもちとした食感で、噛みしめるたびにお米の甘味が感じられます。小麦粉で作ったパンより水分が多いので、しっとりとしています” と書いてあるのですが、まさにその通り、これは「パン」ではなく「ぱん」です。さすがよいネーミングだと思いました。おにぎりやお餅に近い食感と、焼き上げられたパンの香りとが混じり合った新しい食べものです。
 以前から応援している農業高校生が「米粉パン」に挑戦していたこともあり、最近急速に話題になり始めたこのパンはどんな味なのだろうと気になっていましたが、食する機会がありませんでした。きっと食べてみたいと言ったのでしょうね。昨日お会いした栃木県小山市の大久保市長さんが「どうぞ」と渡して下さった紙袋には、“おやまブランド「米ぱん」” のしおりが入っていました。“小山市は、水と緑と豊かな大地に恵まれた米の産地であり、収穫量は栃木県内第3位を誇っています(平成15年度)。米は体を作る良質なたんぱく質やエネルギー源となる炭水化物、体の調子を整えるビタミンなどを含み、栄養的にすぐれていることから平成15年4月より学校給食に地元産の米を使った「米ぱん」を導入し、地産地消を推進しています” とあります。いいですね。お米は穀物の中でも優等生。もちろんそのままいただいて充分美味しいので、私などたきたての御飯に美味しいお漬物があれば充分幸せです。でも、事実お米の消費量は減っているのですから、「新しい食べ方」の工夫はどんどんすべきでしょう。「米ぱん」は一つの道ですし、これで粉として利用するという道が開けましたから、ケーキなどこれまで小麦粉で作ってきたものすべてに新しい味が生れる可能性ありだと思います。もうすでにいろいろ試みられているようですし、天ぷらは米粉を使った方がカラリとあがるとも聞きました。初めて米粉パンの話をしてくれた熊本の農業高校生も、工夫を重ねているようです。米と小麦を混ぜるとまた新しい味ができると聞きました。これからいろいろな「米ぱん」を味わうのが楽しみです。近くのパン屋さんで買えるようになるとよいのですが。
 実は私は、ドイツパン研究会のお仲間に入れていただいていて(なぜか会長です)、ドイツパンに300種もあるとつい先日知ったところなのです。そのうちのいくつかを味わわせていただき、その美味しさにびっくりしました。これも日本のパン屋さんではあまり売られていないのが残念です。ドイツ大使館の方が、“ドイツにとっての麦は日本のお米と同じです” とおっしゃっていました。風土に合った作物を生かして独自の美味しいものをどんどん作り、お互いに他の国の味を評価し合いながら食文化を更に豊かにしていくのが、グローバル時代でしょう。まだちょっと口の中に残っている「米ぱん」の甘味感を楽しみながら考えました。

 【中村桂子】


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