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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【科学は人 — 原点に戻ってみます】

2009.6.15 

中村桂子館長
 「季刊生命誌」読んで下さっていますでしょうか。このホームページの中にありますので、是非お読み下さい。最新号である61号が11日に更新されました。そこでずっと続けてきた記事の一つが “サイエンティスト・ライブラリー” です。「科学は人」という考え方が研究館の基本です。芸術の場合わかりやすいですね。ピカソはピカソ、ダリはダリ(なぜここでダリが出てくるかと言いますと、最近ダリが科学ととても縁が深かったという興味深いことを教えていただいたからです。その話はまたの機会に書きます)。それぞれの絵はその人にしか描けないものとされます。けれども、DNAの二重らせん構造はワトソンとクリックでなくてもいつか誰かが発見しただろうと言われます。確かにそうでしょう。現実にあの頃、アメリカではポーリングがDNAのらせん構造について考えていましたし、ロザリンド・フランクリンは、X線による着実な解析を進めていたのですから。しかし、実際には、他の誰でもない、ブリキ細工を組み立てていた二人がある日これだ!という構造を思いついたわけですし、そこにはこの二人ならではの何かがあったとしか言えません。一番の基本はワトソンのDNAへのこだわりかもしれません。その後の二人を見ると、性質も研究に対する態度も、社会との関係の取り方も・・・すべて違う。それが、若い頃偶然出会って、二人がいたからこそという仕事をしたのですから、やはり科学も人あってのものですし、出会いが面白いと思うのです。
 ですから、科学を知るということは、単に発見された知識をおぼえるというのではなく、それを考えた過程を共有すること以外のなにものでもありません。と言っても皆んなが皆んな科学を体験することはできません。科学者に自身を語っていただくことで少しでも臨場感を出し、科学の本質を伝えたいと思って始めたのが、この企画です。60人集まると、それなりのコレクション、アーカイブとしての意味が出てきました。そこで興味深いのは、多くの方が、虫を採ったり魚釣りをしたり機械いじりをしたり、遊ぶのが大好きな普通の子だったとおっしゃっていることです。子どもの頃から、特別でしたという方はあまりありません。共通点としては、自然との出会い、本との出会いがあります。平凡ですが、この二つはそこから何かを見つけ出せるものなのですね。ですから科学に限らずすべての原点と言えるでしょう。それともう一つが先生。先生については、これもまた機会を改めて書きたいと思っています。最近、人生の先輩としての先生の大切さ(知識を教えるだけの人ではない影響力)が疎かにされているようにも思えますので。私など先生のおかげだけで生きているなあと思うことがよくあります。
 とにかく、ホームページの中のサイエンティスト・ライブラリー、お読み下さい。

 【中村桂子】


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