1. トップ
  2. 語り合う
  3. 【監督が代わると】

ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

バックナンバー

【監督が代わると】

秋山-小田康子 サッカー日本代表チームでは、新しい監督が就任しました。新しい監督の下、どのような戦いとなるのかと観ていたら、なんと、アルゼンチンに勝ったではありませんか。やっぱり監督が代わると違うものなのでしょうか?
 生物のからだの中では、ある現象を引き起こすために、例えば食物の分解やホルモンの分泌、血液凝固などなどを引き起こすために、さまざまな遺伝子やタンパク質が順々に作用を及ぼしていきます。卵の中でからだを形づくるときもそうです。眼をつくるとき、心臓をつくるとき、その他さまざまな発生現象で、順々に遺伝子がはたらいていくことが知られています。順々にはたらく一番はじめには、つくれ!という指令を出す遺伝子があります。面白いのは、指令を出す遺伝子はショウジョウバエでも脊椎動物でも、おそらく他の多くの多細胞動物でも共通に存在し、同様のはたらきをもつことが知られています。重要なはたらきをもつ遺伝子は進化を経ても保存されると考えることができます。さらに面白いのは、もう15年も前のScience誌の表紙を飾ったショウジョウバエの論文。眼をつくれ!という指令を出す遺伝子を、本当は脚や翅を作るはずの細胞ではたらかせると、ちゃんと眼のような構造をつくってしまったのです。やっぱり命令系統が重要なのでしょう。
 ところが、これとはちょっと異なる結果もあります。ショウジョウバエのからだの頭から尾を結ぶ軸をつくるときには、ビコイドという遺伝子が、順々にはたらく遺伝子群の頂点に立つ(一番はじめにはたらく)ことが知られています。ビコイドは頭や尾を作るための遺伝子の転写を調節する因子をコードする遺伝子です。しかし、重要な遺伝子であるにも関わらず、ビコイド遺伝子はショウジョウバエと非常に近縁の昆虫でしか存在しないのです。これまでに研究された他の2つの昆虫では、別の遺伝子がビコイドの代わりをし、ビコイドと同じようなはたらき方で頭尾軸づくりを行います。私たちの最近の研究結果はさらに異なっています。私たちが研究に用いているオオヒメグモの卵では、細胞の外に分泌されたヘッジホッグという因子が他の細胞にはたらきかけ、頭になれ!とか、尾になるな!とか、指令を出しているようなのです。命令系統がこれほどまでに異なっているのに、昆虫でもクモでも同じような頭-尾の軸をつくるというのは、興味深いことです。
 さてサッカーです。12日の韓国戦は0−0の引き分け。相変わらずの結果です。やっぱり監督が代わっても、同じような結果になるのでしょうか?

[ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ 秋山-小田康子]

ラボ日記最新号へ