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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【BRH20周年と私】

2014年3月17日

蘇 智慧

つい先日BRH20周年の記念イベントが東京JT本社ビルで開催されました。会社や組織、個人でもそうですが、歴史の節目に大小を問わず何かの記念イベントを行いたい気持ちがあります。そのイベントに対する思いは人それぞれですが、「やっとここまできた」、「ここまで成長した」、「これからどうする」、いわゆるこれまでの道のりを振り返って将来への展望を整理しようというのが思いの一つであろうと思います。

実は私もBRHに来て今年で20周年になります。BRHとほぼ同じ年です。20年って長いのか、短いのか、二者択一で答えるのは難しいかもしれません。しかし、人の人生って考えたらやはり長いかなと思います。私がBRHに来たのは1994年4月、BRH開館して10ヶ月経ったところです。当然BRHに20年もいるとは夢にも思っていませんでした。そもそもBRHが何年持つかというのは当時よくある会話の一つでした。しかし、思えば20年の歳月が過ぎ、BRHが立派な大人に成長し、私も楽しく研究生活を過ごしてきました。

最初の10年は大澤省三先生とオサムシの研究を進めていました。実はそれまでにオサムシのことはあまり知りませんでしたが、はじめて標本箱に並んだ美しいオサムシの標本をみたとき、歩く宝石ということばは、なんて相応しいと思いました。10年の間に多くの仲間とともに、ワクワクした気持ちで日々の研究を楽しんでいました。フィールドワークでは、新種を発見した時の興奮や研究に必要なサンプルが取れた時の喜び、また車の窓ガラスの外を見るのも怖いくらいの崖道を通って標高3000メートル以上の森奥での採集、炎天下で木が一本もない山斜面での過酷な作業、数百のトラップをかけて一匹のオサムシも落ちてこない失望感・・・数々の思い出がありました。10年間の研究からオサムシの様々な多様化パターンを見出すことができ、生物の進化・多様化の理解にも有益な知見を与えたのではないかと思います。また、オサムシの研究はアマチュアと研究者の見事なコラボレーションであり、日本の昆虫分子系統学の発展の基礎を作ったと言っても過言ではないと自負しています。

オサムシの後、私の研究は生物多様化のプロセスを探ることに重点を置きました。生物の多様化というと、まず頭に浮かぶのはやはり昆虫たちの仲間です。昆虫は動物種の7割以上を占め、この地球上でもっとも多様化している動物群です。昆虫たちはなぜ(Why)、どうやって(How)これほど多種多様になったのでしょうか。その答えを見つけるのは現在行っている研究の目的です。もちろん答えは簡単には見つかりません。特に「なぜ」という問いには実験科学の領域を越える部分もあるかもしれません。

昆虫の多様化を理解するには、まず昆虫たちはどこから来たのか(どういう生物から枝分かれてきたのか)、その共通祖先から現在の多種多様な種になるまで、どういう道筋をたどってきたのか、いわば昆虫多様化の歴史を知ることが重要であり、それは多様な昆虫が進化してきたプロセスを明らかにするためにも必要です。昆虫多様化を理解するために、もう一つ重要なのは生物間の相互作用への理解です。特に植物との関わりが昆虫の多様化に大きく貢献したと考えられます。これら二つの重要ポイントを研究の中心テーマとして、現在ラボの仲間とともに日々奮闘しています。

最後になりましたが、BRH20周年のもう一つの記念イベントとして、BRHシンポジウムシリーズを行っています。前のラボ日記で小田研究員がすでに紹介していましたが、4月26日(土)に「系統関係、形態、生態をむすぶ新ゲノム時代の進化学」というタイトルで第3、4回合同シンポジウムを行います。その第2部では、「昆虫の系統進化と形態・生態の進化」をテーマに5人の研究者が講演することになっています。多くの皆さんのご参加をお待ちしております。詳細はBRHのホームページをご参照ください。

[ DNAから進化を探るラボ 蘇 智慧 ]

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