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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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好きなことを仕事にすると

2019年7月1日

宇賀神 篤

最近「毎月50万円もらって生き甲斐のない生活を送るか、30万円だけど仕事に行くのが楽しみで仕方がないという生活と、どっちがいいか」という広告コピーが話題になりました。「金額が時代にそぐわない」、「やりがい搾取だ」といった批判を受けてしまったようですが、要は「好きなことを仕事にするって楽しいよね」ということを言いたいコピーと思います。

研究者という仕事をしていると、親戚や知人からしばしばこうしたコメントをもらいます。分かりやすく何かの役に立つわけでもないし、誰かを笑顔にすることもなかなかない。それでも生活時間の大部分を費やせるのは研究が好きだから。それは間違いありません。しかし、当然ですが研究者も一般にイメージする「仕事」と同様に職務に伴うそれ相応の責任を抱えています。所属する組織に対して、研究費の出元に対して(大概は税金なので社会に対して)、周りの人に対して等々。そうした責任を考えると、楽しそうで良いねと問われたときに自信を持ってYes!とは言えなかったりします。好きなことを仕事にできているのになんて贅沢な、とお叱りを受けそうですが。。。

そんなことを思っていたところ、某乳酸菌飲料メーカーを母体とする野球チームに所属していた名選手が、引退に際し「好きで始めた野球がプロに入った瞬間に仕事になった。僕は一回も楽しんだことはない」という趣旨の言葉を残していたことを知りました。誰もが認める才能に溢れた一流選手ですらそうなのですから、自分のような駆け出し研究者は「楽しい」なんて思う余裕があるわけなくて当然です。少し安心しました。ちなみに、冒頭の広告コピーは80代の研究者の方が投稿したものとのことで、それを知って一層安心しました。

先日、季刊「生命誌」の記念すべき100号が発行されました。その中に「生命誌研究のこれまでと今」と題した各ラボの特集があります。キャリアを積んだ各ラボの責任者たちが、生き物のどこが好きで何に魅せられているのか語っています。ご興味のある方はぜひ訪れてみてください。読者・来館者の皆さんが「おもしろいな」と感じて笑顔になってくだされば、研究セクターの一員としてとても嬉しく思います。

[ チョウが食草を見分けるしくみを探るラボ 宇賀神 篤 ]

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