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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【サバイバル】

北地直子
 サバイバルゲーム、サバイバル競争、サバイバルナイフ…、「サバイバル」という言葉が一時期はやったのかどうか定かではありませんが、自分もいつ非常事態に陥るかわからないという危機感がつのる昨今、実際にサバイバルセットの備えをされた方も多いかと思います。
 「サバイバル・オブ・ザ・ラッキエスト」とは、分子進化の中立説で有名な木村資生博士の、適者生存(the survival of the fittest)に対する言葉ですが、日常に関連づけて思い出しては、今生きている幸運を感謝すると同時に、天災・人災が消せない因子ならば、知恵をしぼって少しでも未然に防ぎ守られて、みんなでラッキエストになりたいと願わずにはいられません。
 人命に限らず地球の生きものが皆luckiestで fittestであることを考えれば、それぞれのラッキーを壊してはならないと思うし、もっと心優しき人は食事もできなくなるかもしれません。しかしそこは生きものである以上、多くの命に生かされて生き残っていくという実態も、「弱肉強食」ではなく「サバイバル・オブ・ザ・ラッキエスト」と考えた方が納得いくように思います。
 生命に限らず環境や文化もまたサバイバルしてきたと考えれば、例えば現存する文化財の多くも、戦火や災害を免れて残る遺産です。百年千年とその姿をとどめる稀なるものは、人の技や努力もさることながら、幾多の難をのがれた幸運の歴史があるのでしょう。壊すことはできても再現不可能なことは生きものと同様、水やりを忘れた植物が枯れてしまうように、心ない扱いではあっけなく失われてしまいます。現在、BRHカードのART in Biohistory(日本文化の中の生きものを探る)を担当し、古い絵画資料を調べていますが、よくぞ残ってくれていたと思うこともしばしばです。
 失いたくないものの多さと、ラッキエストの責任を感じつつ、38億年の歴史を背負う生きものの一員ヒトとして、日本文化を背負った一人一人として、あらゆるものと共にどう生き残るのか…。あっ!?えらい大きな問題に落ちてしまいました。台風の避難を経験してこんなことを考えました。



[北地直子]

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