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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【いつも増え続けないことに目をむけたい】

岡本和子 「進化」の意味はたくさんありますが、現存していた種から新たな種が生まれることというのが一般的なイメージだと思います。また普段の会話のなかでは「携帯電話の機能が進化した」など新しく開発された技術等にも用いられる単語です。
 私が最近、案内中に大事にしている事柄があります。進化という言葉の持つポジティブさに隠れがちな生き物の歴史を伝えたいということです。私が「生命誌のお散歩」での展示案内中によく発言する「進化はいつも右肩あがりではない」という意味について語りたいと思います。
 「生命誌のお散歩」は17枚のガラスパネルに生物界ごとに色わけされた円が描かれています。円の大きさは種の大きさ、多様さを表し、種の爆発や大量絶滅期などももちろん描き込まれています。はじめの一枚目のガラスパネルは無色透明の円がひとつ。生き物の歴史のスタートです。
 「進化はいつも右肩あがりではない」の意味は種数と生物量に注目した発言です。純粋に生物の種や数は生物誕生時からいつも増加していた訳ではありません。大量絶滅のように9割減少の時期もあれば種の爆発のように種数が数百%増加し、それに伴って生物量も増加する時期もあり恐ろしくダイナミックに変動しています。「進化」の言葉にはポジティブな意味があるせいで、なんとなくイメージは常に増加傾向と受け止められがちなのではないかと感じています。また案内中に感じる事ですが大きなトピックのなかでも種の爆発は印象深いようで、その後の大量絶滅期にはみなさんあまり目がいかないようです。この印象のせいでなんとなくいつも増加傾向というようなイメージがついているのかもしれないですね。しかしながら生き物の歴史を見てみると、安定していつも‘良い方向’に向かうことが進化では無いように感じます。
 「生命誌のお散歩」は教科書とは違う一つのトピックに着目した展示ではなく生き物の種数、数を時系列でみることが出来る展示です。一度、生物の種数、量に着目しダイナミックな変化を感じてほしいと思いながら、私はわざとこの時期に増加し、この時期に減少していますという言葉を使わず「右肩上がりに増えている訳じゃない」と発言し続けています。みなさんもそのようにこの展示を見ていただけるとうれしいです。

 [ 岡本和子 ]

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