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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【生命誌を考える映画鑑賞会】

2017年10月16日

村田 英克

「生命誌を考える映画鑑賞会」は、年に1回、2日限りの「名画座」です。ここでは、「人間も生きものであり、自然の一部である」という考えに基づき、自然・生命・人間を大切にする生き方を描いたドキュメンタリーを上映します。10月27日(金)・28日(土)に、高槻現代劇場402号室で開催します。その上映作品をご紹介します。

まず『動いている庭』。本来その土地が持つ植生や地形に「できるだけあわせて、なるべく逆らわない。」と語るジル・クレマン氏はフランスを代表する庭師です。草や木が、季節とともに移り変わる自然のダイナミズムの中から構成されていく「動いている庭」。その原型を彼の自宅の庭に見ることができます。映画は、瑞々しく多様性に富んだ彼の庭と、庭を手がけ、その思想を語るクレマン氏の日常に寄り添うようにして記録され、織り上げられています。人工と自然の出会う「庭」という「場」に向き合うことで、とても大切な何かを考えさせてくれる作品です。

次は『息の跡』。これは昨年の映画鑑賞会で、聞く・語るという行為を深く考えさせてくれた『うたうひと』からのご縁です。『うたうひと』には民話採訪者・小野和子先生が登場します。東北の地で民話を集め、語り伝えること、更に震災の体験を語り継ぐ活動に取り組む小野先生の言葉を季刊生命誌90号の対談から引用します。「明治という時代、敗戦に向き合った時代、こうした大きな時代の変わり目に、民話に目を向けて、そこから日本文化を考え直そうとする動きがあった(中略)。民話世界の影響もあって、木下順二さんは『夕鶴』を書き、岡本太郎さんは、独自の芸術論に基づいた作品を生みだされたことはよく知られていますね。今(東日本大震災の後)も、きっと若い人たちがいろんなかたちでそれをなさっていると思います。」その一つが、小森はるか監督の『息の跡』であると思います。小野先生が『息の跡』に寄せた言葉を続けます。「「今は昔、世界の果てに、小さなたね屋があったとさ」…「ふんふん、あとは、あとは」と言いたくなりました。それが、震災後の陸前高田での出会いから生まれて、現在をまっすぐに射てくるなんて、ほんとうに心に響きます。土地の人の目には「変わり者」と映るかもしれませんが、たね屋の佐藤貞一さんを小森さんはその深い哀しみごと、ざっくりとすくって下さった。それを見せて下さった。そんな気がしました。記録者として、そして何よりも「表現者」として、これからもたくさんの出来事にぶつかっていかれることでしょう(小森監督に宛てた書簡より)。」映画鑑賞会のテーマは、今年は「自然の中で生きる」、昨年は「ものがたりを生きる」でした。『息の跡』はどちらのテーマも抱えた作品です。

そして『世界でいちばん美しい村』は、写真家・ノンフィクション作家の石川梵氏の初監督作品です。ネパール大地震の直後に現地に入った石川氏が、村で暮らす人々が震災の被害を乗り越えて、寄り添うように、明るく生きていく様子を描き、人間本来の生き方を問いかけます。壮大なヒマラヤを背景に圧倒的な映像美とカメラワークで綴った叙事詩はまさに「自然の中で生きる」ことを考えさせてくれます。倍賞千恵子のナレーション、そしてエンドロールを歌う岩手出身のアコースティックユニット*はなおと*の曲「んだなはん」(岩手弁で「そうだよね」の意)が心に染み渡ります。「家族、共同体、風土としての土地、献身、歌と踊りの役割、信仰、死の意味、死後の世界、私たちにとって普遍的なテーマを映像で投げかける、未来に残る傑作だと思います。」これは、生命誌のドキュメンタリー『水と風と生きものと』出演者の一人である探検家・医師関野吉晴氏の推薦の言葉です。

2日間の映画鑑賞会では、上記3作品に加えて、『水と風と生きものと』も上映します。4つの作品が響き合う中で、自然・生命・人間を深く考え、そして生きる力が湧いてくる鑑賞会であることを願って企画しました。皆さま、是非ともご来場下さい。どれか1本だけ観ても、4本全部観ても、無料です。よろしくお願いします。(詳細はこちらへ

[ 村田 英克 ]

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