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Special Story

光合成 ─ 生きものが作ってきた地球環境

細胞が行なうリサイクルとその進化:工藤光子

太古,大気の主成分は二酸化炭素と窒素だった。 やがて,二酸化炭素を使って酸素を生み出す光合成が生まれ,大気に酸素が増えて, 酸素呼吸をする生物が生まれた。もちろん人間もその仲間だ。 生物学の教科書にはこう書いてある。 ところが最近,その順序が逆なのではないかという話が出てきた。

呼吸の逆回転は光合成?

酸素を吸って二酸化炭素を吐き出す呼吸と、二酸化炭素を吸収して酸素を出す光合成。この2つは出入りする物質が逆である。そこでそれぞれの反応を詳しく見ると、じつはそれもよく似ているのだ。呼吸は解糖系+クエン酸回路+電子伝達系という3つのシステムが連動している。細かいことは省略するが、取り入れた酸素で糖を燃やしエネルギーを取り出す働きである。一方、光合成は明反応と暗反応の2つのシステムが連動している。そして、呼吸のクエン酸回路を逆に回すと光合成の暗反応とそっくりで、呼吸の電子伝達系と光合成の明反応は、膜に埋まったタンパク質が電子を授受するという点が同じだ。つまりとてもよく似ていて、しかも光合成のほうがやや複雑である。光合成が一足飛びにできたはずはない。これらのシステムはいつどうやってできたのかを見ていこう。

逆なのに似ている

光合成と呼吸は出入りする物質が逆なのに、じつは2つの反応は、細かいところがよく似ている。イラストにそってていねいに見ていくと、面 倒なしくみだが、よくできていることがわかる。
図版協力=坂啓典<図工室>

発酵から始まるエネルギー獲得システムの進化

生物が最初にもったエネルギー生産システムは発酵だ。これは外部の有機化合物を少しずつ簡単な分子にしながらエネルギーを取り出す方法で、これはまさに解糖系である。これに物質をサイクルさせるクエン酸回路と細胞の内外の環境の違いを利用した代謝、電子伝達系が加わって酸素呼吸が生まれたと思われる。じつは酸素呼吸の電子伝達系に色素が加わると、光合成の明反応になり、それに、酸素呼吸のクエン酸回路を逆回転した代謝(=光合成の暗反応)が組み合わさると、簡単な光合成が誕生することになる。もっとも酸素呼吸系から直接、光合成系が生まれたわけではないのだが、比べるとまるで、そうやって進化してきたかのように見えるほど似ているのが面白い。

酸素呼吸が光合成より古いという根拠は、分子の進化を比べると、酸素呼吸の電子伝達系の酵素が非常に古く、その酵素が進化して光合成のタンパク質の一部になったのではないかと考えられるからである。また、光合成を行なうバクテリアの古いタイプのものが酸素存在下でも生育できることも、その説を支持する根拠の一つだ。

代謝系の進化 ─ 光合成よりも先に存在した酸素呼吸

光合成で酸素が増え、酸素呼吸が生まれたとよく言われるが、そうではない。わずかな酸素を使った呼吸のシステムが生まれ、その後で光合成が生まれた。光合成は生きものがもつ代謝系としてもっとも複雑なもの。

光合成の起源を探る

光合成は二酸化炭素と水を取り入れ、酸素を発生するものだけだと思いがちだが、じつは、最初に光合成を行なったバクテリアでは、利用したのは水ではなかった。水より前に硫化水素と有機物を使うものが生じたと考えられている。二酸化炭素と光を使って糖を作るのは同じだが、利用する物質が違うと廃棄物は変わる。水を使うシアノバクテリアになって初めて酸素を発生したのだ。

太陽の光を電子の流れに換える重要な役割をするタンパク質である光合成反応中心タンパク質で調べると、1型と2型があり、最初はこのどちらか一方だけを使っていたのだが、シアノバクテリアになって1型と2型の両方を用いるようになった。2つの型が連動すると水を利用できるエネルギーを生み出すことができ、酸素を廃棄物として出す光合成が生まれたのだ。

光合成をするバクテリア

色とりどりなのは、光のエネルギーを捕える大切な物質である色素が違うから。(写 真=松尾稔)

1.シアノバクテリア
  海、湖沼、土壌面、岩上面、生体内など至るところに生息。
2.緑色硫黄細菌
3.紅色硫黄細菌
  硫化水素が発生し、光が当たる沼や海に生息。
4.クロロフレクサス
  温泉などの岩上の緑色の付着物などに生息。50度C付近の温度を好む。
5.ヘリオバクテリア
  地表面から発見されたバクテリア。極端に酸素に弱い。

細胞の間でDNAを取り込む進化

20億年間という長いバクテリアの時代に、生きものは細胞内で、生きものの基本の一つ、エネルギー代謝の仕組みを進化させ、生きものの相互関係を作り、そして環境をも作ってきたことがわかる。細胞の中の進化である。

酸素を生み出す光合成システムは、それぞれ1型と2型をもつ細胞の間での遺伝子の水平移動でできたと考えられている。その当時、バクテリアでは種を超えて遺伝子を取り込み、他の生物の能力を獲得するという進化が行なわれていたのだ。バクテリアが細胞内に核をもたず、DNAがき出しで入っているからこそ、こんなことが可能なのだろう。

20億年かけた細胞の中の進化

葉緑体の起源は、真核細胞にシアノバクテリアが共生したものであることがわかっている。さらに、シアノバクテリアの起源をたどると、光合成をおこなうタンパク質の分類から、2種類のバクテリアであるとわかった。

バクテリア時代の進化のメカニズム ─ 遺伝子を拾う、ためこむ、使いまわす

細胞の中のヒント

光合成と呼吸と言えば、光合成によって、地球の大気に酸素が蓄積し、それを用いて効率のよいエネルギー生産である呼吸が生まれたという関係ばかりが取り上げられてきた。けれども光合成と呼吸は、お互いの廃棄物を使って、また相手に必要なものを作るというリサイクル。ここでは、呼吸のほうが少し先に生じたという新しい説を紹介したが、これは呼吸が完成してから光合成が生まれたということではない。もちろん光合成によって生まれた酸素は、呼吸系の確立に大きく貢献したに違いない。つまり、これらは相互に関連しながら進化してきたのだ。

バクテリアに始まるこの循環の中にいるヒト。そのことを意識し、エネルギーの使い方を考えたいと思う。

(くどう・みつこ/本誌 )

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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