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Special Story

光合成 ─ 生きものが作ってきた地球環境

ガラスの中の光のシステム ─ 光合成を視覚化する
:鈴木亘彦

生命誌研究館では、2000年11月1日から「光合成―生き物とエネルギー展」を始めた。
光合成はなじみの言葉であり、なじみの現象だが、じつは緻密で複雑なので、それが動いている様子を想像できるようにと願って立体模型を作った。
生命誌研究館と仕事をするなら、自分にしかできないことをやりたいという鈴木さんと一緒に挑戦したこの試みを、ぜひ見てください。
光合成のイメージがみなさんに湧くように祈っています。

ここ2、3年は板硝子とポリ樹脂(ポリエステルレジン)を素材に立体造形物を制作している。板硝子を箱状に組み立てて、その内側にポリ樹脂でさまざまな物を閉じ込めたり描いたりしています。共に透過性の高い素材なので、照明を当てると反射したり屈折したりと、光や影がいろんな表情を見せてくれるんです。だから設置場所や照明の具合、視点の位置などで見え方が変わります。物を作るって面白いですよ。いろいろ頭の中で経験と勘を駆使しても結局はできあがってみないとわからない。いつも、初めて照明を当てる時はドキドキします。「おーっ」とか「ほほぅ」、「んー」とか「あらー」だったり。研究者も同じなんじゃないかな。今回の明反応立体模型は楽しかったです。展示担当の工藤さんとは、2年ぐらい前から会って、よく話してました。ほとんどは「私の主張」でしたけど。だから、とても良い状態で依頼を受けられたんです。

最初、「光合成の仕組みを立体模型にしたい」と言われてもさっぱりわからないので、勝手に想像してました。光が虹のように分解してそれぞれの光線に役割があるのかな?とか、じつは細胞の中には無数のレンズが配置されていて、それで光を増幅するのでは?とか……、自分だけで盛りあがってました。資料が届き、エネルギーから光合成までを自習、ここでやはり空想はすべて消えて、立体模型のスケッチを始めました。

細胞内の葉緑体の中の仕組みは見えないんですよ、小さくて。そんな小さい世界がどうやってわかったのか、いま一つ理解できないまま光合成明反応の仕組みや合成酵素を紙粘土でデッサンして、名古屋大学の伊藤繁先生にレクチャーを受けに行きました。驚きましたね。研究は日々進んでいるんです。教科書通りに作った紙粘土はもう違ってるんです。

何度も確認をとりながら制作を進めている間中、感心したり途方に暮れたり。すごいですよね。そんなところで光をエネルギーに換えて、しかも酸素まで作ってるんですから。作れば作るほどわけがわからなくなることもあって、不安にもなりました。

どうしても物で置き換えられない部分が出てきて、それをどう表現していくか、これこそ私の力量 が計られるわけです。重力や素材の強度を考えながら、なおかつ表現のニュアンスを大事にしてウソのないものを作らないと意味がないわけです。でも一方で、何がどうなっているのかわからないところまでも、現実に目の前にある強さとして出せるというのも面白かったです。

パッと見ただけでは難しいかもしれないけれど、光合成についてまったく知識がないところから始めた私が作ったのです。展示を順に観てゆけばわかるはずです。よくよく観ると見えるんですよ。僕にもまだなかなか見えないのですが、皆さんそれぞれのイメージをふくらませてくれることを願っています。 

①太陽エネルギーを地球につなぎとめる生物たち

地球上に生き物がいなければ、太陽から降りそそぐエネルギーは地球上にとどまることはありません。ミクロコズム(板状部分の中央)を使ってそのことを表現した作品。ミクロコズムとは生態系のエネルギーの動きと物質の流れを簡単にした人工の生態系で環境の研究に使われる。(制作=studio deldede/鈴木亘彦・鶴田比呂彦 ミクロコズム提供=杉浦桂/相模女子大学)

②酸素発生型明反応立体模型―2

明反応は多くのタンパク質が次々に働いて起こる複雑な反応。小さな世界のみごとな秩序。ここでは、わかりやすいように反応の流れに沿って葉緑体膜のタンパク質を順に並べたが、実際はこのように並んでいないのに反応はうまく進んでいく。

③酸素発生型明反応立体模型―1

葉緑体の中を再現。葉緑体の中には何層もの膜があり、そこには、光合成の始まりである明反応に必要なさまざまなタンパク質が埋っている。膜がたくさん重なるところと重ならないところではタンパク質の分布が異なる。

④浮水 1998

普段の生活の中で採取した物を散りばめた硝子箱のテーブル。それぞれの採集物は記憶のかけら、気分のかけらであり、表面に浮かばせた水玉ごしに遠くゆらいで見える。

⑤望幻鏡 1999

何処から来たのかがわかれば、何処に行けばよいのかがわかる。そんな「何処?」を見つけるための道具。

⑥「透過する今日」展 1995(日本橋高島屋にて)

彩色されたゴマが無数に散らばったタイコ。ゴマは皮の振動によって、踊り、さまざまな表情を見せる。

 

写真: (写真=①・③安福隆幸、②松尾稔、④~⑥奥村基)
    (①~③は光合成展のための作品)

鈴木亘彦(すずき・のぶひこ)

1969年、神奈川県生まれ。美術造形作家。東京造形大学卒業後、ブラジルへ渡り3年間制作活動を行なう。サンパウロで開催された日本とブラジル日系の若手作家26人展('95)、国際フォーラムで行なわれたNICAF('99)に参加するなど展覧会多数。そのほかにも幅広く活動を行ない、建築では、ホテル阪神ロビーニッチ・カフェや慶応大学マルチメディアルームにかかわり、『Water Planet 01.02.』などの出版物の企画にも参加している。

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