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Special Story

光合成 ─ 生きものが作ってきた地球環境

生きものとして生き続けることを
可能にするエネルギーの時代 :藤村亮一郎

生物界では,地球上に分散した植物が,光合成により,太陽エネルギーを生物に利用可能な資源にしている。人間は,それを食糧やエネルギー源として利用してきた。しかし,化石燃料(これもおそらくかなりの部分光合成の結果だろう)の登場以来,エネルギーは特定箇所で集中的に生み出されるようになった。 その結果,経済に歪みが生じただけでなく,大量消費のために環境問題が深刻化している。しかし今,再び,分散する太陽エネルギーを巧みに使う時代に向かいつつある。人間は,植物の力はもちろん,直接太陽光を利用する技術も開発し, 生きものとして上手に生きるすべを探っている。

人間が初めて火を使って以来,人間にとってエネルギーは重要な課題であったが,産業革命前までは,人間と エネルギーの関係は単純で比較的均質だった。エネルギー消費を反映する経済指標の一つである一人当たり 国内総生産(GDPpc )は,最近の推計によれば,16 ~17 世紀頃には全世界を通じて地域差が少なく,増加率も小さかったのである。

産業革命で起きた変化は,言うまでもなく,埋蔵エネ ルギー資源(まず石炭)の利用の急拡大と,熱機関の発明である。こうして物資の大量輸送と集積型産業が実現し, その結果,たとえば1820~1913 年の間に西欧の人口は 2 倍に,GDPpc は2.9 倍に急増した。反面,生活空間は 煤煙にまみれ,苛酷な労働条件とあいまって,肺病や労働災害の多発という影が生じた。さらに世界の工業化水 準に大きな地域格差が生じ,アジア・アフリカ諸国の水準はヨーロッパの数十分の一になった。

19 ~20 世紀の電力・石油・天然ガスの登場は,この状況を尖鋭化した。20世紀後半,石油の使用量は急増 したが,アジア大陸・アフリカ諸国のGDPpcと一次エネ ルギー使用量は今もいわゆる先進国の10分の1 前後である。また,地球規模での環境問題が起き,今,多くの人が人類の未来を見据えかねている。

ここで,もう一度より均質なエネルギー使用の時代を 思い出し,人間とエネルギーの関係を新しい形にして,第二の時代へと移せないのだろうか。そうやって明るい 未来を見出せないだろうか。私は,すでに新しい時代への移行が始まっていると見ている。

20 世紀前半までの第一の時代のエネルギーは,素材 こそ木材から石炭へ,石油へと移り,量も使い勝手も大 きく変わったようにみえるが,じつは,自然に存在する物質の状態変化によって得られるものを使っているという 点では,ずっと同じだった。木材,石炭,石油などを作っている物質の中の化学的な結合を変えて,結合のた めに使われていたエネルギーを解放してきたのである。

たとえば,プロパンは,炭素が3 個結合して,そこに水素がついているもので,それを燃やすと炭素の間の結合が切れて炭素1 個のCO2 (二酸化炭素)になる。ここで得 られるエネルギーを私たちが使ってきたわけだ。

ところが,20 世紀後半になって,これまでとは違う形 でのエネルギーの使い方が生まれた。物質の内に入りんで,原子や分子の組み合わせや配置を工夫し,物性を変化させる新しい技術を利用するのである。たとえば,シリコンの結晶にアンチモンを不純物としてごくわずかに混ぜるだけで,導電性が生まれるのが好例だ(半導体と呼ばれ,不純物の種類と量によって伝導度などを変えることが できる)。この新技術によりトランジスタ,レーザー,太陽電池,超伝導線材などが登場してきた。

太陽光を使うためのチャンピオン,太陽電池は,2 種類の半導体からできている。一方は自由に動ける電子をもち,もう一方には電子の抜けた穴(正孔)がある。2 つをくっつけると,境界面付近で電子と正孔が打ち消し合 い,その両側にプラスに帯電した領域とマイナスに帯電した領域が自然にできる。光によって,シリコンに束縛されていた電子が飛び出すと,電子はプラス側に引きつけられ移動することになる(逆に,電子が飛び出した後にできた 正孔はマイナス側に移動する)。プラス側とマイナス側を導線でつなぐと電子が流れる,つまり電力が得られるわけである。

光エネルギーを直接電子のエネルギーに変換できる 状態を人工的に作り,その電子のエネルギーを使うのだから,これは人工量子エネルギーと呼べるだろう。まさ にエネルギーの革命だ。おそらく光合成もこのようなエネルギーの作り方をしているのだろう。この変化の特徴は,生産設備が小さくてすみ,エネルギーの生産・消費が分散型になり得ることだ。今や社会では,コンピュー タ,通信機器の小型化,低価格化が進んでいるし,さらに太陽光エネルギー(そこから生まれる風力も)の電力化が 進めば分散型になっていく。個人やグループがエネルギ ーの消費者であるだけでなく生産者にもなり得て,すべ ての人がエネルギーに関して責任をもつ社会が作れる。

20 世紀は技術が巨大システム化し,人間の制御の能 力を超えたのではないかという不安を感じさせる。また,有限の地下資源を短時間で大量に使いすぎ,次の世代, 次の次の世代……とこれから生きていく子孫に大きな借金を残した。その結果,環境破壊をも引き起こした。人 類の未来を考えるなら,今,変化が起きている新しい技術を用いて,システムの分散化をすること,有限の地下 資源でなく,太陽のエネルギーをそのまま活用する方法を探ることだろう。先に述べた人工量子エネルギーの活 用がその技術的な基盤となる。小規模システムは,エラーも制御しやすく,多くの人々の生活をより均等化する。 人とエネルギーの間に均質で平明な関係が回復するわけである。もちろん,光合成はこの技術のもっとも精密な ものの一つとして今後も研究が進み,活用されてゆくだろう。前述のプロパン燃焼などで発生するCO2につい ていえば,植物は光合成という見事な仕組みで再び炭素をつないでいるが,酵素や色素などの分子構造を工 夫するなどして,将来的にはこれに見合う技術を考え出せるのではないか。
 
今世紀は,生きものとしての人間にとって永続できるエ ネルギーの時代になり,それぞれの地域が個性的な文化を競う時代になってほしいと願いながら,太陽光利用の方法を探っている。

【太陽電池のしくみ】

1:自由に動ける電子(-)をもつ半導体( 桃色 )と自由に動ける正孔(+)をもつ半導体(水色)。+は電子を放出したイオン,-は電子を捕らえたイオンを示す。
2:2種類の半導体を接合したものをつくると,境界面付近では電子と正孔がうち消し合うので,正に帯電した領域と負に帯電した領域ができ,正から負に向かう電場ができる。
3: 日光によって自由電子ができる。
4: 自由電子は電場によって押し流される。導線でつなぐと電子が流れ電力が得られる。
   (3、4では中性領域の電子,正孔,イオンは省いた。)
 

藤村亮一郎(ふじむら・りょういちろう)

1930年,山口県生まれ。元大阪学院大学経済学部教授。応用物理学者。固体の放射線現象,ルミネッセンス,エキソ放射,表面交換反応など,固体欠陥の動的物性を幅広く研究し,90年代後半から,有限資源下の個体数変動,エネルギー資源問題などの研究を開始。砂漠での太陽水素生産の可能性,原子力発電の環境コスト,微量放射線の寿命影響などに注目している。著書に,『放射線による固体現象と線量測定』(養賢堂)などがある。

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