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Special Story

光合成 ─ 生きものが作ってきた地球環境

ちょっとお勉強コーナー 光合成と水

光合成のみごとさをみていこう。

水、大気、光。これらは地球上の至る所にある。光合成はこのどこにでもあるものを利用して緑溢れる地球を作っている。緑によって動物が生きられる環境が生まれ、しかも多様になっていったのだ。

もちろん、複雑なメカニズムをもつ今のような光合成が突然出現したのではない。進化の過程で少しずつ改良されてきた。じつは、水、大気、光の中で最初から変わらないのは光だけだ。とくに水の利用は大きな変化であり、水を利用した光合成が地球を作り変えたと言ってもよい。

光合成が環境を変えていった

最初の生きものが誕生した頃は、大気の酸素濃度は現在の100万分の1以下だったらしい。その中で、最初は水の代わりに海の中にある硫化水素、有機酸を使った光合成が始まった。しかし、これらは量 的にも限られており、地域も決まっていた。これでは行き詰まってしまう。そこへ水を利用する光合成が登場したのだ。水を使った光合成では、酸素が廃棄物として排出される。その結果 、大気中の酸素はぐんぐん増えていった。いくらでもある水と二酸化炭素と光を利用して、植物(藻類)がせっせと光合成に励んだ結果 、酸素に富んだ地球ができ、今の生態系が生まれた。

多様な生きものを生んだ光合成

もし、水を利用した光合成が生まれなかったら、生きものの住める場所は非常に狭い範囲に限られていたはずだ。いやおそらく、光合成がそれ以上進まない時が来て、生きものは絶えていたのではないだろうか。水を利用したことで生きものの生息圏が広がり、進化を促すのに十分な空間が得られた。こうして生きものの多様性が生み出された。人間もそうして生まれた生物の一つだ。

水の役割は電子をあげること

では、こんなに大事な光合成での水の役割は何だろう。生物の教科書にはこう書いてある。6CO2(二酸化炭素)+6H2O(水)→C6H12O6(糖)+6O2(酸素)。化学式が嫌いな方もこのくらいなら許してくださるだろう。これを見ると、水の中のOからO2つまり大気中の酸素を作ることが水の役割のように思われるが、じつはそうではない。申し訳ない。ここからが少し難しいのだが、とても大事なところでもある。水は電子の供給源としても利用されている。分子の構造は、水素や炭素などの原子がどのようにつながるかで決まっているが、それをつなぐ"かすがい"の役割を果 たしているのが電子である。水はH-O-H、二酸化炭素はO=C=Oとなる。光合成で使われる水は、二酸化炭素のもつ炭素に水素をつないで糖を作るための、"かすがい"としての電子を供給する役割をしているともいえるのだ。こうして体の中で利用できる分子が作られていくのである。

電子をもらうにはエネルギーがいる

水から電子をもらうにはエネルギーがいる。初期の光合成で使われていた有機酸や硫化水素も電子を与える役をしていたのだが、その場合のほうが水から電子をもらうよりエネルギーが少なくてすむ。水はたくさんあるけれど、ちょっと利用しにくいわけだ。光合成は、そこをクリアして水を使い始めた。

さて、何が変わったのだろうか。じつは、光のエネルギーを二度受け取るようになったのだ。光のエネルギーを一度得るだけでは、水から電子をもらい、それを炭素と水素の"かすがい"とするには足りない。二度もらえば充分。こうして、やや複雑だけれど水という素晴らしい物質を利用するみごとな現在の光合成が生まれたのだ。

水が地球を変え生命を育んだ

こうしてほぼ無尽蔵にある3つの資源、光、水、二酸化炭素を利用して生きものの体が作られることとなった。酸素はどんどん増え続け、初期の頃には酸化作用の被害を受けた生物もかなりいたことだろう。しかし、しばらくすると、廃棄物である酸素を有効に利用してエネルギーを効率よく得る生きものが生まれた。それまで利用していた発酵より酸素呼吸のほうがはるかに効率がよいので、今ではほとんどの生物が酸素呼吸をしている。なんと巧みな廃棄物利用だろう。光合成は二酸化炭素から酸素、呼吸は酸素から二酸化炭素。みごとな組み合わせができた。

水は、生命を生み出し生物の生存を支えているだけでなく、光合成を通 して広い地域で生物が生きていける資源ともなった。それによって生物多様性が生み出され、さらに酸素のおまけもついた。

すべては水に始まったと言えそうだ。

膜の中を電子が流れるしくみと電位 の変化

光合成では、電子のエネルギーを光のエネルギーで高め、NADP(補酵素)に渡し、最終的にCO2から炭水化物を作る。つまり、光のエネルギーが還元力(結合しにくい原子どうしのかすがいとなる力)になったのである。この光エネルギーの変換は膜上のタンパク質で行なわれる。

シアノバクテリア以外の光合成バクテリアは、有機酸や硫化水素から電子を引き抜き、バクテリオクロロフィルaを使って光エネルギーを変換している。

シアノバクテリアや植物は、エネルギーの高い赤色光を利用できるクロロフィルaを使って、水から電子を引き抜くことができるようになった。電子は、さらにもう一度光を受けとることで、エネルギーを高められ、NADPに渡される。

(鳥居信夫/本誌 )

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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