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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【4月】

龍田勝輔 春です。生き物みんなが活気づいてくるこの季節、新年度が始まり人間の皆さんも新しい始まりにやる気がみなぎっていることと思います。今回は研究のお話。昨年度はアゲハチョウの味覚を電気生理学的手法で解析していたのでその報告です(註1)。
 アゲハチョウは脚でミカン葉の味を感じて、「ミカンだな」と認識し産卵します。アゲハチョウが味を感じ産卵するためには、実は10種類もの葉に含まれる成分(産卵刺激物質といいます)が必要です。この事実は京都大学の西田律夫先生を中心にミカン葉成分を分析・分離し、それらの成分の様々なブレンド液で、アゲハチョウが産卵するかを確認する実験によって明らかにされました。つまり、ミカンの葉に含まれる膨大な成分から、アゲハチョウが「ミカンだな」と認識し産卵するために必要な成分は10種類だと決めたわけです。大変な仕事だったと思います。
 これまで産卵刺激物質が10種類であること、それらの味を認識するためには脚にある感覚子が必要ということはわかっていたのですが、実際にアゲハチョウが10種類の産卵刺激物質を脚の感覚子で感じているのかはわかっていませんでした。そこで私は、それを明らかにするために電気生理実験を行いました。まる一年を通じて実験し、脚にある味覚感覚子が3種類あること、水、糖(甘み)、塩を感じていること、産卵刺激物質の中でも味覚として認識していない可能性が高い成分があること、産卵しない雄成虫も脚の感覚子で産卵刺激物質を感じていること、アゲハチョウが他の昆虫とは異なる味覚受容システムを持つ可能性があることなど色々なことがわかりました。同時に、新たな疑問、やりたい実験がどんどん増えていきます。
 まだ、いくつか調べたいことがあるので今年も引き続き実験を行います。これまでの電気生理実験によりアゲハチョウが脚の感覚子で色々な味物質を認識することがわかりましたが、なぜ味覚として認識していない可能性が高い産卵刺激物質が存在するのか、なぜ脚の感覚子で糖や塩を認識する必要があるのか?という新たな疑問への答えを探しだすため、最近、産卵行動実験や摂食行動実験を行っています。現在、これらの結果と電気生理実験で得られた結果を合わせて考察中です。

註1:電気生理については昨年のラボ日記「アゲハチョウの電気生理実験」をご覧ください。

[チョウが食草を見分けるしくみを探るラボ 龍田勝輔]

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