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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

バックナンバー

【バックナンバー 】

1999年4月15日

 先日、青山研究員と10月より始まる「形をつくる骨」展のためにスナヤツメ採集に行ってきました。スナヤツメというのは無顎魚類(顎のない魚)。無顎魚類以外の脊椎動物(背骨のある動物)はみんな顎を持っています。顎というのはとても大きな発明で、積極的に餌を取るためには必要不可決な構造なのです。では、顎をもたないスナヤツメはどんな口をしているのか、これを見ていただこうという趣向です。
 スナヤツメは、きれいな砂底の川に住んでいます。幼生の時は川の脇の土に潜ってくらし、変態して大人になると産卵のため川に泳ぎ出てきます。私もスナヤツメとは初対面。 一回目は土の中に居る幼生をとりにいきました。胸の辺りまである長靴(ウィダーというらしい)を履き、網で川の土をすくい取ると、その中にみみずが灰色になり、太くなったようなニョロニョロとしたスナヤツメの幼生がいました。ちょっと不気味、眼もないし、ひれもないのに魚みたい、、。でも、「スナヤツメの研究が私達に教えてくれること」を先に知った私は敬意も感じてしまいました。
 2回目は親。ちょうど桜が咲くころに変態を終え、出てくるとのこと。川に着くと、採集を指導して下さっている阪大の先生が、「まだですねえ、もう少し待ってみましょう。」と川面を見ながら言うではないですか。なんと、出てくるのを待つ。なんだか、久しぶりに本当の時間の流れを感じました。待つこと1時間、その間私は川の中をざぶざぶ探検していたのですが、遠くから、あー出た出た!との声。すると川の中をひょろひょろと泳いでいるのです。2、3匹ですけれど。ここからは追いかけっこです。網を持ちざぶざぶ川の中を追いかけ回し捕まえるのです。捕まえた親はぱっちりと眼が開き、ひれも魚のように付いた立派に魚っぽい生き物でした。でも、こいつらは吸い付くのです。私の長靴にも、、、。そうやって夕暮れまで眼を皿のようにして川の中を探し、9匹取ってきました。今はJT生命誌研究館の水槽で飼っています。卵をうませ、発生の何段階かを展示します。
 久しぶりに机を離れ、川の中で実際の生き物を観察してきました。すいすいと泳ぐイモリやドジョウ、オタマジャクシ、河原でひなたぼっこするカメなどなど。展示を考える上で、もちろん生活する上でも、原点に戻るというか、とても大切なものに触れた気がしました。皆さんも10月になって展示が始まったらスナヤツメの標本達に会いに来てください。
[工藤光子]

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