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中村桂子のちょっと一言

ダマシオと生命誌

投稿日:2019.06.09 ニックネーム:ミッキー

アントニオ・ダマシオの「進化の意外な順序」を読みました。理解は十分ではありませんが、内容は驚きの連続でした。この本に関する中村館長のちょっと一言(3月15日)をベースにさせていただいて、学んだ事、感じたことを箇条書きにしてみました。ご一読いただければ幸いです。

1.「ホメオスタシス」は生命活動の基軸で、この本の影の主役です。ダマシオは「なにがあっても生存し未来に向かおうとするプロセスの集合」と表現しています。確かに庭に生える雑草には、いのちの逞しさを感じます。
「感情」はホメオスタシスの状況が表現(表象)されたものであり、その「感情」が意識、知性、文化の構築に重要な役割を果たすという彼の説は驚きです。
感情といえば大脳の「扁桃体」がすぐに浮かびますが、彼は「内臓(の状態、ホメオスタシスの状況)」が「感情」の始まりだとしています。内臓は、体の中でも進化的に最も古い組織なのだそうです。

2.心の始まりとして、神経系の出現が必要で、外界からの刺激を神経系でマップしてイメージとして捉える能力が“必須”だと言います。したがって単細胞生物は、あたかも社会性のある行動を見せるが、それはホメオスタシスの規則に従っているだけだと言い、ハチやアリの社会性行動も、心を持った結果の行動ではないと言います。生きものは進化の過程のどこかで「心」を持つに至ったが、それがいつかは定かではないそうです。専門家として、彼の“心の定義”はとても厳格です。私はもっと広く捉えて、感情の起源であるホメオスタシスの規則が働いているのなら、単細胞生物(受精卵も含めて)も心を持つと考えたいし、また、そう感じます。

3.生物学的自然主義者サールの唱える「伝統的な心体二元論は間違いである。」を支持するかのように、ダマシオは「脳と身体の間には緊密で永続的な結合がある」と言います。例として、「脳幹」にはa.脳から身体の抹消に向かう神経束と、逆にb.身体の抹消から脳に集まる神経束があります。a.の部分に脳梗塞が発生すると、意識はあるが身体が動かなくなります。逆に、b.の部分に脳梗塞が発生すると“意識がなくなる”そうです。つまり、体からくる神経系から切り離された脳は意識を保てないそうです。驚きです。まさに、心と身体は一体なのですね。

4.ダマシオと生命誌
この本はとても素晴らしく、専門用語を調べながら読むのは、時間はかかりましたが大変勉強になりました。しかし、読みながら何かしら違和感を感じていたのも事実です。最近、その理由に気が付きました。生命誌の感性はヒトを含めたすべての生きものを同一平面、同一円周上に置きます。しかし、ダマシオの感性は生きものをピラミッドに配置し、人間をその頂点に置いて、特別視しています。同じ事実でも、感性や価値観が異なれば見え方は違ってくると思います。
私は生命誌の感性で生きものを見るのが好きです。ダマシオの卓越した神経科学の知識を学び、「ホメオスタシス」を「生きものらしさ」と表現する生命誌の感性をもっと育てたいと思います。よい本をご紹介いただきありがとうございました。

追伸:3.はダマシオのTEDプレゼンテーションも参考にしました。

お返事

投稿日:2019.06.11 名前:中村桂子館長

ダマシオお読みになっての感想、ありがとうございます。
おっしゃる通り、人間中心のところは生命誌と違いますが、脳研究者としてここまで考えているというところに関心を持ちます。それを「意外な順序」と言っているわけですが、生命誌の立場からは意外ではなく、これがあたりまえでしょうと思っています。さまざまな切り口から少しづつ近づき、新しいことを明らかにしていくのが面白いところですので、異なる分野の人の考えを知ることは大事です。

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